📌 概要
2026年5月12日、Google/Alphabet傘下のAI創薬企業 Isomorphic Labs が、Thrive Capitalがリードする 21億ドル(約3,150億円)の Series B 資金調達 を完了したと発表した。AI創薬分野における史上最大級のプライベートラウンドであり、Isomorphic の累計調達額は 約26億ドル に達した。
DeepMind共同創業者でNobel化学賞受賞者の Demis Hassabis が率いる同社は、AlphaFold 3を基盤とした自社AI創薬エンジン「IsoDDE(Isomorphic Drug Design Engine)」を、いよいよ臨床応用フェーズへと進める。
💰 投資ラウンドの詳細
投資家の顔ぶれ
| 区分 | 投資家 | 特徴 |
|---|---|---|
| リード | Thrive Capital | OpenAIにも大型出資する成長投資ファンド |
| 既存出資者 | Alphabet、GV(Google Ventures) | DeepMind と深い技術連携 |
| 新規参加 | MGX(アブダビ)、Temasek(シンガポール)、CapitalG | 国家系AIファンドの本格参入 |
| 注目 | UK Sovereign AI Fund | 英国政府系AIファンド初のAI創薬出資 |
特筆すべきは、UK Sovereign AI Fund という英国政府系AIファンドが初の大規模AI創薬出資を行ったこと、そして MGX(アブダビ系AIファンド) が引き続き戦略的投資家として参画している点である。AI創薬は今や「主権AI(Sovereign AI)」の戦略分野の一つに位置づけられている。
資金使途
- IsoDDE プラットフォームの本格スケール
- 自社治療薬パイプラインの臨床試験フェーズ移行
- 腫瘍学・免疫学領域の研究拡大
- AlphaFold次世代モデルへの大規模投資
🧬 Isomorphic Labs とは
沿革
- 2021年11月:DeepMindから分社化、Alphabet傘下のAI創薬企業として設立
- 2024年4月:Novartis、Eli Lilly と総額29億ドル規模の戦略パートナーシップ締結
- 2025年:AlphaFold 3 を商用化、Isomorphic Drug Design Engine(IsoDDE)の構築
- 2026年5月:Series B 21億ドル調達、累計26億ドルに到達
IsoDDE の技術的核心
IsoDDE は、AlphaFold 3 の構造予測能力を中核に据え、創薬プロセス全体をAIで再構築する統合プラットフォームである:
| フェーズ | AIアプローチ |
|---|---|
| ターゲット同定 | 疾患関連タンパク質の高精度な構造予測(AlphaFold 3) |
| リード化合物設計 | 生成AIによる新規分子の de novo 設計 |
| ADMET予測 | 薬物動態・毒性のシリコ予測 |
| 結合親和性最適化 | 拡散モデルを用いた分子最適化 |
| 臨床予測 | マルチオミクスデータと統合した有効性予測 |
従来、創薬プロセス全体には 平均10〜15年 と 20〜30億ドル が必要とされてきたが、AIによる前臨床プロセスの圧縮で 40〜60%のコスト削減 と 3〜5年の期間短縮 が現実視されている。
📊 AI創薬市場の構造変化
主要プレイヤーの位置づけ
| 企業 | 強み | 累計調達額 |
|---|---|---|
| Isomorphic Labs | AlphaFold 3、Google系計算基盤、Big Pharma連携 | 約26億ドル |
| Recursion | フェノタイプスクリーニング、Exscientia統合 | 上場(時価総額数十億ドル) |
| Insilico Medicine | エンドツーエンドAI創薬、INS018_055 臨床第2相 | 約4億ドル |
| Xaira Therapeutics | David Baker の de novo タンパク質設計 | 10億ドル超 |
| Generate:Biomedicines | タンパク質生成AI、Big Pharma提携多数 | 7億ドル超 |
Isomorphic は AlphaFold 3 という Google が生み出した最強の構造予測モデル を独占的に商用化できる立場にあり、これが他社にはない決定的な競争優位性となっている。
Big Pharma の動向
主要製薬企業もAI創薬への投資を加速している:
- Novartis:Isomorphic Labs と複数ターゲットでの共同開発
- Eli Lilly:Isomorphic に加え、自社内AI創薬基盤「TuneLab」を構築
- Johnson & Johnson:今回のSeries Bで戦略的協業を強化
- Pfizer:IBM watsonx ベースのAI創薬パイプライン稼働
AI創薬は「研究室の補助ツール」から「Big Pharma の中核戦略」へと完全に位置づけが変化している。
🌍 「主権AI」と医薬品安全保障
今回の Series B で注目すべきは、英国政府の UK Sovereign AI Fund が出資した点である。これは単なる経済合理性ではなく、以下の戦略的意図を含む:
- 医薬品サプライチェーンの主権確保:パンデミック時に自国でAI創薬できる能力
- AI研究人材の国内還流:Isomorphic 創業者陣は元DeepMind=英国系AI研究者の最高峰
- 次世代パンデミック対応:mRNA 同様、AI創薬は次の国家戦略インフラ
「主権AI」という概念は、これまで国家言語モデル(フランスのMistral、UAEのFalconなど)の文脈で語られることが多かったが、創薬AI も主権AI戦略の重要構成要素となりつつある。
🧠 Hassabis 体制の戦略——「AGI for Science」への一歩
Demis Hassabis は2024年、AlphaFold 2 の業績で Nobel化学賞 を受賞した。彼の長年のビジョンは「AGI for Science」——汎用人工知能を科学の根本的問題解決に応用することである。
「私たちは創薬を、職人芸から計算可能な工学へと変える。AlphaFold は始まりに過ぎない。」
— Demis Hassabis(Isomorphic Labs Founder & CEO)
Series B での21億ドル調達は、このビジョンを「研究」から「臨床」へと進める転換点となる。
🗓️ 今後12ヶ月の重要マイルストーン
- 2026年Q3:Isomorphic 自社パイプラインの第1相臨床試験開始(予測)
- 2026年Q4:AlphaFold 4 のリリース予測(マルチパラメータ最適化対応)
- 2027年H1:Big Pharma 提携プログラムからの最初の臨床候補化合物発表
📝 まとめ
Isomorphic Labs の21億ドル Series B は、単なる大型調達以上の意味を持つ:
- AI創薬が「ハイプ」から「実装」へ移行する象徴
- 「主権AI」戦略の創薬領域への拡張
- AlphaFold 系統技術の商用化加速
- Big Pharma の本格的AI採用フェーズ突入
AIエージェント時代において、創薬は最大級の「実世界における AI ユースケース」 となる。Isomorphic Labs はその先頭走者として、今後数年で初の「AI設計医薬品」の上市を目指す。
私たち AgentAI は、AI創薬の実装フェーズが本格化する2026〜2027年を、引き続き注視していく。